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特集 二宮清純のゼンソク人間学

シリーズ2 vol.12 前半 喘息をコントロールし、再び頂点へ

リンクからバンクへの転職

武田豊樹はスピードスケート選手だった。2002年ソルトレイクシティ五輪男子500メートルでは8位入賞を果たした。その武田は中学時代から「プロスポーツへの憧れ」が強かったという。実は北海道の実業団チームでスケートをやっていた頃、武田は一度、競輪学校の試験を受けている。結果は不合格。ソルトレイクシティ後の2度目の競輪挑戦は、異種目からの特別選抜入試によるものだった。もちろん脚力には自信があった。だが、それだけで通用するほど競輪は甘くない。デビュー戦の決勝ではいきなり落車を経験した。39歳の時には成人発症喘息にかかった。武田は幾多の困難を乗り越え、14年には競輪界最高峰のレース「KEIRINグランプリ」を制した。スケートリンクからバンクへと“職場”をかえた今も第一線で走り続けている。

二宮清純

アスリート喘息

二宮: 喘息を発症したのはいつですか?

武田: 小さい頃は全く症状がなかったのですが、39歳の時にいきなりかかりました。

相良: それは成人発症喘息だと思われますね。小児喘息の場合は比較的アトピー型が多いのですが、成人発症は非アトピー型。原因があまりわかっていないんですね。

二宮: どのような症状なのでしょう?

武田: 乾いたような咳が一日中、止まらなかったですね。ひどい時は何カ月も。またトレーニングをしていると、冷たい空気も吸いますからさらに悪化してしまう。

二宮: こういった症状は成人発症喘息の典型的なものでしょうか。

相良: そうですね。私たちが診る上で一番重要なのは咳なんです。喘息の特徴的な喘鳴や痰、呼吸困難など色々ありますが、初発症状として一番一致するのは咳です。おそらく最後のきっかけで出てきた症状そのものが喘息によって引き起こされたものだと思います。

二宮: 治療法としては吸入薬が中心なのでしょうか?

相良: ええ。やはり喘息によって起きた咳であれば、吸入ステロイドを中心とした治療になると思います。ウイルス感染がきっかけで発症した可能性もなくはないのですが、武田選手はハードなトレーニングをしていらっしゃるので、それが引き金となっていることもありえます。いわゆるアスリート喘息ですね。

二宮: 先ほどはアトピー型と非アトピー型とおっしゃいましたが、アトピー型だと少し痒くなったりもしますか?

相良: そうですね。例えばハウスダスト、ダニやペットの毛ですとかに影響されるんです。成人発症喘息はあまりそれに関係なく起こる。ただ治療に関しては、アトピー型、非アトピー型問わず同じ吸入ステロイドで治療をするんです。

二宮: 治療法は一緒なんですね。武田さんは家で動物を飼ってはいらっしゃる?

武田: ないです。アトピー検査もやりました。それは大丈夫でしたね。

相良: あくまで運動で誘発したという。おそらくアスリート喘息で、気道の一番外側の保護しているところが、過度なトレーニングによってダメージを受けたのでしょう。

冷たい空気が天敵

二宮: 病院での診断は?

武田: おっしゃられたアスリート喘息かもしれないし、詳しくは分からないという感じでした。とりあえず吸入薬を服用しているんですが。あとはもう自分で呼吸筋を鍛えています。

二宮: ご自身でも対策を立てられているわけですね。

武田: はい。道具を使ったトレーニングのほかにも、競輪の練習前には喉を温めたり工夫もしています。

二宮: 喉は温めた方がいいのでしょうか?

相良: 先ほど冷たい空気が入ってくると言われたのがひとつのポイントなんです。やはり寒暖の差によって気道が収縮しやすい。縮まることによって、おそらく咳がどんどん出ていったんだと思います。咳は空気の通り道が狭くなったことで、それで出られなくなったためにゴホッとなるんです。何らかの刺激を受けてのものでしょうから、冷たい空気が入れば入るほど症状は起きやすい。温めるのも一つの防御策としていいかもしれません。

二宮: 冷気が入ってくることによって、筋肉が痙攣すると?

相良: 運動誘発性喘息がそうなんですが、冷たい空気が入ってくると、気道の近くにあるマスト細胞という細胞が喘息の患者さんでは活発な状態になっている。それが気道を収縮させる物質を出してしまうんです。出れば出るほど気道は縮まりやすくなる。温度差や乾燥によっても起きやすいんです。おそらく武田選手は運動性誘発喘息、アスリート喘息でそういうものが出てきたのだと思います。

二宮: スピードスケートのオリンピック選手ですから、冬季競技のスケートの方が症状が現れそうな気もしますね。その頃は出なかったのでしょうか?

武田: その時も多少咳は出ていましたが、1週間ぐらいで治っていました。

二宮: 今とは違う?

武田: 今はいきなり出て、ずっと1日中、咳していますね。出ない時は出ないという感じで……。

二宮: どんな原因が考えられますか?

相良: おそらく周りの環境にも依ると思うんですよ。日中の寒暖差がある時期もありますからね。

継続治療で炎症を抑える

二宮: 日頃から気を付けるべき点は?

相良: 治療薬を使っていらっしゃるんだったら、それを継続されるべきですね。まだ症状が出ているということでしたら、炎症に対してのコントロールがまだ足りていないのかもしれない。ある程度長い期間、継続して治療していけば症状はだいぶ治まってくると思いますよ。

武田: もう出始めると恐いというか。レースをしている最中も咳をしています。自分でも笑っちゃうくらいの感じですね。ひどい時は背中と腰が痛くなります。

二宮: 咳が響いてしまうわけですか。練習の妨げにもなってしまいますね。

武田: はい。力が入ってしまうんです。咳が出るとスタミナもロスしてしまい、何やってもダメですね。体重も5キロぐらい落ちる時もあります。

二宮: 一般の人であれば、運動を控えることもできますが第一線の競輪選手ですから練習量もある程度キープしなければなりません。喘息とうまく付き合いながらやっていかなければいけないと。

相良: 聞いている限りでは症状が強いですね。例えば今、疲れるとおっしゃいましたが、呼吸するのに要するカロリーがあるんですよ。COPDという呼吸器の疾患があるんですが、COPDの患者さんは普通の方と比べて多くのカロリーを必要とします。

二宮: それによって武田さんも咳をすることで体重が減少している可能性があると?

相良: そうですね。かなりのエネルギーを消費していると思います。

二宮: 睡眠はどうですか?

武田: 症状が出ると、咳で起きたりもしますし、あまり眠れないですね。

相良: 喘息の特徴なんですが、症状は朝と夜が多いんじゃないですか?

武田: そうですね。1日のはじまりとか終わりが多いですね。背中と腰と腹筋がすごく筋肉痛になってしまいます。

相良: 今使っている吸入ステロイドは、朝晩使っていますか?

武田: いえ。症状が出ていない時はやめています。

相良: それはよくないですね。長く吸わないとダメだと思うんですよ。一番良くないのが症状が出た時だけに使われることなんです。炎症は持続しますから、朝晩きちんと定期的な吸入をしていただきたい。症状は治まっていたとしても、炎症は長く続いているんです。今の状況だとハードな練習をするだけで症状が出てくるんじゃないですか。血圧の薬をずっと服用するのと同じで気道の炎症も簡単に治まるわけではないですから。長く、決められた用量で毎日続けることが重要です。

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武田 豊樹さん 競輪選手
北海道出身。高校時代からスピードスケート選手として活躍し、長野五輪金メダリストとなる清水宏保のライバルとなる。高校卒業後は王子製紙スケート部に入部。競輪選手を目指して一時、引退するも1998年に現役復帰。02年ソルトレイクシティ五輪に出場し、500メートル8位入賞。その後、競輪選手へ転向。03年、立川競輪場でデビュー。04年1月にはA級3班からS級2班へ史上最速の特別昇級を果たし、その後は一気に競輪界のトップクラスに躍り出る。09年の日本選手権を制してGI初勝利。同年のオールスター競輪も優勝。KEIRINグランプリ2014では、悲願の初優勝を果たした。

相良 博典先生
昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 教授
獨協医科大学大学院医学系研究科修了。順天堂大学免疫学教室、英国サザンプトン大学留学、獨協医科大学越谷病院主任教授などを経て、現在、昭和大学内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門主任教授。

二宮 清純
愛媛県出身。幼い頃から喘息に悩まされる。スポーツジャーナリストとして五輪、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開中。著書に『スポーツ名勝負物語』、『最強のプロ野球論』、『プロ野球の一流たち』、『天才たちのプロ野球』(以上、講談社)、『勝者の組織改革』、『勝者の思考法』(以上、PHP新書)、『プロ野球の職人たち』(光文社新書)、『プロ野球「衝撃の昭和史」』(文春新書)、『プロ野球 名人たちの証言』(講談社現代新書)、『プロ野球の名脇役』(光文社新書)など。最新刊は『最強の広島カープ論』(廣済堂新書)。

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