喘息(ぜんそく)の患者さんや家族を対象に、
疾患に関わる情報を発信しています。
喘息(ぜんそく)は、
気道が炎症を起こして狭くなり、
呼吸がしにくくなる病気です。
喘息は、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が起こり、 気道が収縮して狭くなる病気です。 呼吸が苦しくなり咳(せき)や痰(たん)がでるなどの症状が繰り返しみられます。さまざまな刺激に気道が敏感になって発作的に咳や痰が出て、ゼーゼー、ヒューヒューという喘鳴を伴って息苦しくなります。
[喘息予防・管理ガイドライン2021, p.50~54]編集協力:一般社団法人 日本喘息学会理事長 近畿大学病院病院長 東田 有智先生
喘息はどんな病気?
喘息は、気道が炎症を起こして狭くなり、
呼吸がしにくくなる病気です
喘息は、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が起こり、気道が収縮して狭くなる病気です。 呼吸が苦しくなり咳や痰がでるなどの症状が繰り返しみられます。 喘息患者さんの気道は慢性的な炎症により敏感になっているため、ちょっとした刺激が加わっただけでも喘息症状が悪化して、咳や呼吸困難などが起こる「喘息増悪(ぜんそくぞうあく)」がみられることもあります。
正常な気道
気道は広がっていて、空気が障害されずに通ります。
喘息患者さんの気道
気道が炎症を起こして狭くなり、空気の流れが悪くなっています。
喘息はどんな症状?
喘息には、軽いものから重いものまで、
さまざまな症状があります
喘息の基本的な症状は咳がでる、呼吸が苦しいなどの呼吸器症状です。見逃しやすい喘息の症状もあります。
基本的な喘息の症状
- 咳が出る
- 胸が圧迫される感じがする(息切れがする)
- 呼吸が苦しい
- 息を吐くとき、のどがゼーゼーヒューヒュー鳴る
- のどがイガイガする
- たんが出る
見逃しやすい喘息の症状
- ちょっとした刺激で咳き込む
- 刺激とは:
-
- ちょっと走る(運動)
- 階段、坂道を上がる
- 大声で笑う
- ホコリやたばこのけむり
- 疲労やストレス
- かぜをひきやすい
- 夜、咳などの症状で目が覚めてしまう
[喘息診療実践ガイドライン2023,p.4]
喘息の原因は何?
喘息は、
複数の要因によって引き起こされます
喘息は、複数の個体要因(個々の患者さんの持つ要因)と環境要因が互いに影響しあった結果として引き起こされます。個体要因としては、家族の喘息の有無と遺伝的要因、性別、アレルギー(アトピー)素因、早産児・低体重での出生、肥満、気道過敏性などがあげられます。一方、環境要因としては、アレルゲン曝露、呼吸器感染症、喫煙、大気汚染(室内・室外)、鼻炎、食物などがあげられます。
個体要因
喘息の発症リスクとなる患者さん個人の要因です。
- 家族の喘息の有無と遺伝的要因
- 性別
- アレルギー(アトピー)素因
- 低体重での出生
- 肥満
- 気道過敏性
環境要因
喘息の発症および増悪リスクとなる環境の要因です。
- アレルゲン
- 呼吸器感染症
- 喫煙
- 大気汚染(室内・室外)
- 鼻炎
- 食物
- 気象(気温)
喘息に似た注意が必要な病気は?
咳や痰などの症状は、
喘息以外の病気のサインかも知れません
長引く咳や痰などの症状があらわれる病気は、喘息以外にもさまざまなものがあります。正確な診断のために、診察時にご自身の症状を医師に正確に伝えてください。
咳喘息
ぜーぜーという喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難の症状はなく、乾いた咳が長く続きます。どちらかというと夜間に咳症状があらわれやすく、冷気や温度の変化、受動喫煙、会話、運動、飲酒、精神的な緊張、低気圧の接近などがきっかけとなって発症することが多いとされています。一部の患者さんでは次第にぜーぜーという喘鳴があらわれるようになり、喘息へと移行することがあります。
[喘息予防・管理ガイドライン2021, p.206]アトピー咳嗽(がいそう)
のどのイガイガ感を伴う乾いた咳が深夜から早朝に出ることが多く、咳喘息と似ていますが、咳喘息と異なり気管を拡げる効果のある薬は効果がありません。
[喘息予防・管理ガイドライン2021, p.207]COPD(慢性閉塞性肺疾患)
タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで発症する不可逆性の肺疾患で、「咳・痰」や「息切れ」といった呼吸に関わる症状があらわれることが特徴です。
一般社団法人 日本呼吸器学会. https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html より改編.胃食道逆流症(GERD)
胃酸や胃の内容物が食道へ逆流することで食道粘膜の傷害や食道外の症状が引き起こされる病気です。食道外の症状としては、慢性の咳症状や喘息があらわれることがあります。
[喘息予防・管理ガイドライン2021, p.206-207]喘息はどう検査・診断するの?❶
喘息の診断には、日頃の症状が重要なため、
詳細な問診が行われます。
喘息が疑われる場合、次のような症状に関する問診が行われますので、正確に医師に伝えましょう。
医師が患者さんに問診する代表的な例は
「咳が3週間以上続いていませんか?」
「夜に咳が出やすくなったりしていませんか?」
などです。
喘息が疑われる患者さんに対する問診チェックリスト
大項目 | 喘息を疑う症状(喘鳴、咳嗽、喀痰、胸苦しさ、息苦しさ、胸痛)がある。 | |
小項目 | 症状 |
|
背景 |
|
※医療に関する判断は医師とご相談ください。
[喘息診療実践ガイドライン2023,p.4]喘息はどう検査・診断するの?❷
喘息は、呼吸機能の検査などを行い
診断します。
喘息のコントロール状態や
管理状態を把握するためには、
喘息コントロールテスト(ACT)などの質問票が
大きな役割を果たします
喘息の診断は、アレルギー検査、スパイロメトリーやピークフロー(PEF)などにより検査し、喘息コントロールの状態や管理状態を把握するためには、喘息日誌、質問票(ACT)に加え、気道の炎症に関する臨床検査等を行います。
喘息の主な検査法と特徴
アレルギー検査 | 喘息の診断に有用。血液を用いて行うアレルゲン特異的IgE抗体価測定または皮膚テスト(プリックテスト)があり、日本ではおもに前者により判定する。 |
スパイロメトリー | 最も基本的な呼吸機能(気流制限:気道が狭くなっているかどうか)検査であり、喘息重症度の判定や治療効果の判定の客観的指標として用いられる。 最初の1秒間に吐き出した息の量をFEV1(1秒量)という。 |
ピークフロー(PEF) | 簡便なピークフローメーターで測定でき、患者さんが気流制限を毎日客観的に評価することができる。 |
喘息のコントロール状態の管理と特徴
喘息コントロールテスト (ACT) (Asthma Control test) |
簡単な質問に回答するだけで、患者さん自身が現在の喘息のコントロール状態を点数で判定できる。症状(3項目)、発作治療薬使用 (1項目)、総合的評価(1項目)から構成される。成人用(12歳以上)と小児用(4~11歳)の2種類がある。 |
喘息日誌 | 症状や気道の状態を示すピークフロー値、使った薬の状況を毎日記録するための日誌。患者さん自身だけでなく、医師に見せることで喘息の状態がよくわかり、治療の参考になる。 |
各種臨床検査 ・喀痰中好酸球比率 ・気道過敏性 ・呼気中一酸化窒素濃度 ・末梢血好酸球数 等 |
気道の炎症や、呼吸機能の低下等を知るために行われる。 |
呼吸機能の検査
最も基本的な呼吸機能検査、気流制限の程度や気管支拡張薬の吸入前後の肺機能の変化を調べる際に推奨される。総呼出量(努力性肺活量:FVC)、最初の1秒間の呼出量(努力性1秒量:FEV1)、1秒率(FEV1%=FEV1/FVC)を測定できる。
患者さん自身が、気流制限の程度や変動性を調べることができる。
喘息のコントロール状態を知る質問票:喘息コントロールテスト〔ACT、C-ACT〕
喘息のコントロール状態を把握するための質問票です。喘息患者さんがご自分で5つの質問に答えるだけで、喘息コント
ロール状態を知ることができるツールです。
本テストは、25点(満点)が「完全な状態」、24~20点で「良好な状態」、20点未満が「コントロールされていない状態」の3段階で判定されます。喘息診療実践ガイドライン2023では、医師が患者さんの喘息コントロール状態を把握するために有用な喘息コントロールの評価法として記載されています。
12歳以上の患者さんは
「喘息コントロールテスト(ACT)」を、
4〜11歳の患者さんは
「小児喘息コントロールテスト(C-ACT)」を使用します。
喘息症状によって重症度は変わるの?
喘息の重症度は軽症間欠型~重症持続型の
4段階に分けられます
喘息の重症度は軽症間欠型、軽症持続型、中等症持続型、重症持続型の4段階に分けられます。症状の頻度と強度で重症度を分類すると、症状が毎週ではないのが軽症間欠型、毎週だが毎日ではないのが軽症持続型、毎日ではあるが日常生活には支障がないのが中等症持続型、毎日症状があり日常生活に支障を来しているのが重症持続型です。医師は、個々の患者さんの症状や呼吸機能〔ピークフロー(PEF)、一秒量(最初の一秒間に吐き出した息の量(FEV1)〕の程度に基づいて重症度を判断し、薬の種類や量を決定します。
未治療の喘息の臨床所見による重症度分類(成人)
重症度 | 軽症間欠型 | 軽症持続型 | 中等症持続型 | 重症持続型 | |
喘息症状の 特徴 |
頻度 | 週1回未満 | 週1回以上だが 毎日ではない |
毎日 | 毎日 |
強度 | 症状は 軽度で短い |
月1回以上 日常生活や睡眠 が妨げられる |
週1回以上 日常生活や睡眠 が妨げられる |
日常生活に 制限 |
|
しばしば増悪 | しばしば増悪 | ||||
夜間症状 | 月に2回未満 | 月に2回以上 | 週1回以上 | しばしば | |
PEF FEV1 |
%FEV1 %PEF |
80%以上 | 80%以上 | 60%以上 80%未満 |
60%未満 |
変動 | 20%未満 | 20〜30% | 30%を超える | 30%を超える |
喘息治療の目標は?
治療の目標は、
喘息症状をなくすことです
喘息の管理目標の達成には、気道炎症の原因となる危険因子 (ウイルス感染、ダニ、カビ、たばこの煙、大気汚染など)を回避・除去し、適切に薬物を使用することにより、気道の炎症を抑制して、気道を十分に拡げること(可能な限り正常に近い呼吸機能)が大切です。
これにより、健康な人と同じように生活を送ることができるようになることを目指します。
喘息にはどういう治療があるの?
喘息症状のない状態を目指し、
吸入薬を中心とした治療を行います
喘息の管理目標の達成には、気道炎症の原因となる危険因子 (ウイルス感染、ダニ、カビ、たばこの煙、大気汚染など)を回避・除去し、適切に薬物を使用することにより、気道の炎症を抑制して、気道を十分に拡げること(可能な限り正常に近い呼吸機能)が大切です。
これにより、健康な人と同じように生活を送ることができるようになることを目指します。
喘息の治療の原則は、まず、喘息の要因を取り除き、吸入薬を中心とした治療を行うことです。
喘息治療の原則
- 1
- 喘息の要因を取り除く
喘息の要因となるアレルギーの原因(アレルゲン)を取り除くことは重要で、アトピー型喘息では十分に行うことが必要です。また、たばこの煙など気道を刺激するものを避け、睡眠を十分にとるなどします。
[喘息予防・管理ガイドライン2021, p.36~39]- 2
- 長期管理薬と増悪(発作)治療薬による治療
喘息治療には、毎日規則的に使う長期管理薬と、増悪(症状の悪化)が起きたときだけに使う増悪(発作)治療薬があります。また、重症度に応じて治療薬の量を変えたり、異なる種類の治療薬を使用します。
喘息治療薬の種類と働き
長期管理薬
長期管理のために継続的に使用しコントロール良好を目指す薬剤。
症状や増悪がなくても毎日規則正しく使用。
主な長期管理薬には、吸入薬として吸入ステロイド薬、長時間作用性β2刺激薬、長時間作用性抗コリン薬が、経口薬としてロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤、ステロイド薬が、注射薬として生物学的製剤などがあり、それぞれの薬の働きは下記の通りです。
吸入薬
①吸入ステロイド薬、②長時間作用性β2刺激薬、③長時間作用性抗コリン薬
各薬剤の単剤以外に、①と②の2成分配合剤(ICS/LABA)や①と②と③の3成分配合剤(ICS/ LABA/LAMA)があります。
①~③の吸入薬に含まれる成分の働きは以下の通りです。
それぞれの働きを正しく理解して使用しましょう。
①吸入ステロイド薬 | 気道の炎症を鎮める長期管理薬です。 喘息の悪化を防ぎます。 |
②長時間作用性β2刺激薬 | 長時間気道を拡げる長期管理薬です。 喘息の症状が出にくくなります。 |
③長時間作用性抗コリン薬 | 長時間気道が縮むのを抑える長期管理薬です。 気道の分泌反応を抑える作用もあります。 |
経口薬
ロイコトリエン受容体拮抗薬
気道を収縮させたり、炎症させたりするロイコトリエンという化学伝達物質の作用を抑える働きがあります。
テオフィリン徐放製剤
気道を拡げたり、炎症を鎮めたりする働きがあります。
ゆっくり溶けるタイプの薬なので作用時間が長いといった特徴があります。
ステロイド薬
炎症を鎮める強い作用を持つ全身性に働く薬です。
注射薬
生物学的製剤
これまでの治療ではなかなかコントロールが難しい患者さんに使用される薬です。
喘息の要因の一つであるアレルギー反応を抑えることで気道の炎症を抑えます。
増悪(発作)治療薬
喘息増悪治療のために短期的に使用する薬剤。
増悪(発作)治療薬としては、主に短時間作用性の吸入気管支拡張薬が使用されます。
短時間作用性の吸入気管支拡張薬 | 増悪を速やかに鎮める増悪(発作)治療薬です。 増悪の始まりやひどくなる前に吸入すると効果的です。 |
吸入器のタイプ
喘息治療には、吸入薬がよく使われます。
吸入薬のタイプとしては、自分の吸気力によって薬剤を吸入する「ドライパウダー吸入器」(DPI)と加圧ガスによって吸入するエアゾール式の「定量噴霧式吸入器」(MDI)の2タイプがあります。
ドライパウダーの吸入薬は自分のタイミングで吸入でき、薬剤を吸い込むときにタイミングを合わせる必要はありません。
一方、エアゾール式の定量噴霧式吸入器(MDI)は、ボンベを押して噴霧するタイミングと吸い込むタイミングを合わせる必要があるので、ある程度のコツが必要ですが、上手に粉末を吸い込めないお年寄りや乳幼児でも、吸入補助器具を使用すればゆっくり普通の呼吸に合わせて楽に吸入することができます。
※小児への使用が認められていない吸入器もあります。医療に関する判断は医師とご相談ください。
喘息症状がなくても治療は続けるの?
症状がなくても、
治療を続けることが大切です
喘息は気道の慢性炎症性疾患であり、喘息症状のあるとき
だけでなく、症状のないときでも気道の炎症は残っています。
症状がなくても毎日定期的に長期管理薬(吸入ステロイド薬など)による治療を継続することが大切です。
吸入ステロイド薬の完全な中止は増悪リスクの上昇と関連していることが報告されているため、吸入ステロイド薬による治療は続ける必要があります。継続治療により喘息症状が良好にコントロールされている状態が持続した場合は治療を見直し、吸入ステロイド薬の減量や薬剤の中止などが検討されます。医師の指示なく、患者さんの自己判断で治療を中止しないようにすることが大切です。
喘息の予防はどうしたらいいの?
増悪の原因を
できるだけ避けるようにしましょう
喘息症状の原因を突き止める
喘息症状を起こす誘因は数多くあり、すべてを見つけるのは困難ですが、できる限り見つけ出し、避けるようにします。
喘息症状を起こす誘因や感作アレルゲン(ほこり、ペット、花粉など )の回避は重要であり、アレルギーが関与するアトピー型喘息では十分に行う必要があります。また、喫煙や受動喫煙、過労などの増悪因子の回避、除去に努めましょう。
喘息症状を起こす誘因
- 調査対象:
- 15歳以上の成人喘息患者5,969例
- 調査期間:
- 1998年9月~11月
- 調査方法:
- 神奈川県下の108施設において、医師あるいはコメディカルが患者に対し、アンケート用紙の質問項目に即して発症時期、家族歴、合併症、喘息症状、喘息の誘引物質、現在の状態などについて聞き取り調査を実施した。病型、重症度、治療薬使用状況については医師が記入した。
改訂年月:2024年5月
- ページ
トップ